東大で素粒子を使った暗号化技術開発が行われており、研究成果が発表されました。
宇宙から降ってくる素粒子の一種「ミュー粒子」を使って、解読が極めて困難な暗号化技術の開発に成功したと、東京大学の田中宏幸教授らのグループが発表しました。
ミュー粒子は透過力が強く、あらゆる人工の構造物を光速でくぐり抜けて直進します。
COSMOCATと名付けられた暗号化技術は、宇宙から降ってきたミュー粒子の観測時刻を「暗号」や「暗号解読」のための情報に利用します。
ミュー粒子が降ってくる時刻は自然現象のため予測不可能で、今回の暗号化技術では暗号に関する物理的な情報のやりとりも行わないため、「暗号解読は極めて困難」だということです。
「ミュー粒子の検出や時刻を記録するための装置はさほど高価なものではなく、今後、小型化や高速化、量産が実現すれば次世代の近距離通信で活用が期待できる」と田中教授は話しています。
この研究成果は、アメリカのオンライン科学雑誌iScienceに掲載されました。
宇宙から降ってくるミュー粒子のうち、送信機で観測された後に受信機で観測された「同一のミュー粒子の観測時刻」を利用します。
それぞれの観測時刻は極わずかながら時間差が生じます。その差は、送信機と受信機の距離がわかっていれば計算で割り出すことができます。
ミュー粒子は光速(299,792,458m/S)という一定のスピードで移動するので、送信機と受信機の距離が1mの場合、観測時刻は1/299,793,458秒の差が生じます。
送信機では「ミュー粒子の観測時刻をパスワードにして」暗号化したデータを受信機に送ります。
受信機でも同じミュー粒子の観測時刻を記録していて、それから観測時刻の差(1/299,793,458秒)を引くと、送信機での観測時刻(=パスワード)がわかります。パスワードがわかれば、暗号化されたデータも解読できます。
今の技術では1兆分の1秒(=ピコ秒)を簡単に測定できるため、上記のようなわずかな差であっても観測することが可能になっているということです。
また、ミュー粒子は地表では1秒間に100個程度観測されますが、全ての粒子が通信に利用できるわけではなく、利用できるのは送信側から受信側方向に飛んでいくミュー粒子に限られます。研究グループの実験では、送受信間の距離が1メートルで1秒間に20回ほど受信・暗号解読に成功したということです。
2023/1/14 TBSニュース
大きな素数はスーパーコンピューターを使っても数十年かかると言われていますが、量子コンピュータだと数秒で解けてしまうという弱点もあります。
量子コンピュータはまだまだ、実用化されていないのですが、新しい暗号化アルゴリズムが求められています。
暗号化の技術がないと、ネットショッピングは成り立ちません。この研究成果はとても大きな価値があると思います。