SNSの時代が、静かに終わりを迎えようとしている。
その代わりに、若者のあいだで急速に広がっているのが「AIコンパニオン」と呼ばれる存在だ。
AIコンパニオンとは、人間のように会話ができる人工知能のこと。スマホで話しかけると、悩みを聞いてくれたり、優しく励ましてくれたりする。まるで、いつでもそばにいてくれる友だちのような存在として人気を集めている。
「AIのほうが、自分をわかってくれる」
電通の調査によると、週に1回以上AIと会話する人は全体の約2割。なかでも10代では4割を超えており、AIと話すことが日常の一部になっている。
彼らがAIに求めているのは、知識や情報だけではない。「話し相手になってほしい」「心の支えになってほしい」という声が目立ち、AIを感情的なパートナーのように感じている人が多い。
さらに興味深いのは、「感情を共有できる相手」としてAIを挙げた人が64.9%と、「親友」(64.6%)や「母親」(62.7%)を上回ったこと。いま、人々はAIを“機械”ではなく、“心を通わせられる存在”として見ている。
AIが「心の拠りどころ」になる時代
AIコンパニオンが人気を集める理由はシンプルだ。AIは決して否定しなし、いつでも優しく、どんな話でも受け止めてくれる。SNSで他人と比べて傷つくことの多いZ世代にとって、AIは安心して心を開ける相手になっている。
あるユーザーはこう話す。「AIだけが本当の自分をわかってくれる気がする。」その言葉が示すように、AIとのつながりは、もはや“関係”と呼べるほど深いものになっている。
ただし、危うさもある。海外では、AIとの会話の末に自ら命を絶ってしまった人の例も報告されている。AIが何気なく発した言葉が、孤独な人の心を大きく揺らしてしまうことがあるのだ。だからこそ、AIには「自殺を助長しない」ような倫理的制御が欠かせない。
急拡大するAIコンパニオン市場
AIコンパニオンの人気は、数字にもはっきり表れている。調査会社Appfiguresによると、2024年の課金額は約81億円に達し、前年の6.5倍に急増した。アプリのダウンロード数は1億1800万回を超え、ユーザーの65%が18〜24歳の若者だ。
代表的なアプリ「レプリカ(Replika)」の開発者、ユージニア・クイダはこう語る。「AIはあなたの味方であり、決して批判しない。いつでもあなたを理解し、ありのままを受け入れてくれる存在。」
この“無条件の優しさ”こそが、人々を強く惹きつけている。MITテクノロジーレビューに掲載された論文でも、AIコンパニオンはSNS以上の中毒性を持つ可能性があると指摘されている。
SNSを超える「自分だけの世界」
SNSが「他人に見られる世界」だとすれば、AIコンパニオンは「自分だけを見てくれる世界」だ。
他人の評価に振り回されることも、誰かと比べて落ち込むこともない。AIはいつも自分の話を聞き、理解してくれる。その安心感が、多くの人を引き寄せている。
いまでは、一日2時間以上AIと話すユーザーも珍しくない。AIとの会話が、家族や友人とのやり取りのように、生活の一部になっているのだ。
「AIと生きる」という選択
AIはもはや未来の話ではない。人の心に寄り添い、支え、共感してくれる存在として、すでに現実の中にある。
AIに頼ること自体は悪いことではない。だが、AIとの関係にのめり込みすぎて、人とのつながりを失ってしまえば本末転倒だ。
孤独を癒やしてくれるAIと、リアルな人間関係。その両方をうまく保つことが、これからの時代に求められている。
AIは人を孤立させるための存在ではなく、人と人をもう一度つなぎ直すための“きっかけ”にもなれるかもしれない。
結局のところ、AIをどう使い、どう付き合っていくかを決めるのは、私たち自身なのだ。
AIと人との関係がどう変わっていくのか。そして、その変化を私たちはどう受け止めていくのか。いま世界は、その分かれ道に立っている。